イスラエル軍がレバノン南部の戦略的要衝であるボーフォール城を占拠した。25年以上ぶりのレバノン領内への深い侵攻であり、4月中旬に発効したとされる停戦合意を無視するかのように攻勢を拡大している。イスラエル政府はヒズボラの軍事能力を粉砕する目的で地上作戦を深化させているが、レバノン政府や国際社会からは「焦土作戦」や主権侵害として強い非難が巻き起こっている。
12世紀に十字軍が築いたとされるボーフォール城は、リタニ川以北の高地に位置し、南レバノンと北イスラエルを一望できる戦略的拠点である。イスラエル軍のアヴィチャイ・アドラエ報道官がXに投稿した映像では、城壁にイスラエル国旗が翻る様子が確認できる。イスラエル軍はリタニ川を越えて約10キロ北のザラニ川沿いまで進出し、同川以南の全住民に退避を命令。ナバティエやティールの周辺でも戦闘が激化し、イスラエル軍は「テロ組織のインフラ破壊と直接脅威の除去」を正当化している。
ベンジャミン・ネタニヤフ首相は地上作戦の拡大を指示し、「ヒズボラが支配していた地域での支配を深め、拡大する」と表明した。これに対し、ナワフ・サラム・レバノン首相は演説でイスラエルの行為を「焦土作戦と集団罰」と断じ、即時の停戦と完全撤退を要求した。エジプト外務省は「明白な侵略」と強く非難し、フランスは国連安全保障理事会の緊急会合を要請。米国のドナルド・トランプ大統領もホワイトハウスでインタビューに応じ、イランとの和平合意が「差し迫っている」としながらも、核武装を許さず軍事行動も選択肢に残すと警告した。
現地の報告によれば、この衝突でレバノン側では3,300人以上が死亡し、120万人以上が避難を余儀なくされている。イスラエル側でも兵士24人と民間人4人が犠牲となった。停戦交渉はワシントンで行われているが、ヒズボラはレバノン攻撃中の武装解除に応じず、レバノン政府も国軍だけでは武装解除を遂行できない状況にある。イスラエルの攻勢拡大は、レバノン国家の権威を揺るがし、ヒズボラの「自衛」正当化を後押しする結果となっている。米イラン間の和平協議とも連動する中、南レバノンの長期的な軍事支配や人口移動が新たな地域不安定要因となりつつある。