シンガポールで開催された主要国国防相級フォーラム「第23回シャングレ・ラ・ダイアログ」において、ピート・ヘグセット国防長官は、中国の軍備拡張に対する警戒を表明しつつも、地域に「安定した均衡」を維持する方向性を示した。昨年に比べ批判のトーンを和らげ、ドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席の会談で合意された戦略的安定の枠組みを支持する姿勢を強調。同時に、アジア太平洋地域の同盟・パートナー国に対し、防衛費を国内総生産(GDP)の3.5%に引き上げるよう求め、「米国の軍事力に依存したフリーライダーの時代は終わった」と宣言した。
ヘグセット長官は、中国の歴史的な軍事力増強と地域内外での活動拡大について「正当な警戒」が必要だと指摘。太平洋が任意の覇権国によって支配されることは、地域均衡を崩し、各国が維持しようとする均衡を損なうと警告した。その上で、米中関係は「長年の中で最も良い状態」にあるとし、両国の軍事・軍事関係が健全で安定した持続可能な道を進むことを望むとした。これに対し、中国代表団団長である中国人民解放軍国防大学の孟祥青少将は、ヘグセット長官の発言を評価。トランプ氏と習主席が達した合意は「今後3年を超える米中関係の戦略的指針となるべきだ」と述べ、競争を合理的な範囲に留め、差異を管理する正常な安定状態の実現を期待する立場を示した。中国側は国防相を派遣せず、軍事専門家や学者からなる代表団を構成している。
対台湾政策については、ヘグセット長官は「現状に変更はない」と明言しつつ、対台湾軍備売却の最終決定権はトランプ大統領にあると語った。トランプ大統領は先月中国を訪問し、対台湾軍備売却を中国との交渉材料として位置づける発言をしていた。また、中東情勢では、イランとの和平合意が未だ成立していない状況を受け、米国がイランへの攻撃を再開する準備が整っていると示唆。イラン戦争は市場を揺るがし、エネルギー危機と弾薬不足を招いているが、ホルムズ海峡の再開とエネルギー価格の安定化が課題となっている。
今回の発言は、米国が同盟国に防衛負担の平等化を迫る政策の転換を明確化したものと言える。日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、シンガポールの動向を高く評価する一方、欧州諸国への批判も交え、米国主導の安全保障から「責任共有」への移行を推進する方針だ。地域各国は米中の戦略的競争が本格化する中で、自国の安全保障と経済的利益のバランスをどう取るかが問われる。ヘグセット長官が提示した「安定した均衡」の実現と、同盟国間の防衛費負担再分配が、アジア太平洋の安全保障環境をどのように再編するか、注視が必要となる。