米国とイランの和平交渉が進展の兆しを見せる中、ドナルド・トランプ米大統領がイラン合意と並行して中東の複数のイスラム諸国による「アブラハム合意」への参加を義務づけるよう要求し、交渉に複雑な展開をもたらしている。トランプ氏は交渉が「順調に進んでいる」と評価する一方、イラン外務省報道官は合意の即時署名はあり得ないと反発し、両者の温度差は依然として大きい。
トランプ米大統領はSNSで、サウジアラビア、カタール、パキスタン、トルコ、エジプト、ヨルダン、バーレーンに対し、イスラエルとの国交正常化を定めたアブラハム合意への同時署名を「必須」と主張した。合意から外れる国は「この合意に関与すべきではない」と警告したが、一部は事情を考慮する余地もあるとの見解も示した。ルビオ国務長官はニューデリーでの会見で、ホルムズ海峡の再開通に関する「確かな基盤」が提示されているとし、外交による解決を最優先すると語った。
一方でイラン側は、外務省報道官のエスマーイール・バガエー氏が記者会見で、議論の大部分で結論に達したとしつつも「合意の即時署名を言い張ることは誰にもできない」と述べ、楽観論に水を差した。イランは凍結資産の解除、米海軍の封鎖解除、ホルムズ海峡の航行権管理、そしてレバノンにおけるヒズボラとの戦争終結を求めている。核問題については、初期合意締結後60日間で協議する方向で一致しつつあるが、高度に濃縮されたウランの廃棄を巡り米国の要求とイランの拒否が交錯している。
交渉の行方を左右する地域諸国の反応も分かれている。サウジアラビアとカタールはイスラエルとの国交正常化にパレスチナ国家樹立の不可逆的な道筋を条件としており、パキスタンも対立姿勢を明確にしている。イスラエルのネタニヤフ首相は一時的な休戦を支持しつつもレバノンやヒズボラへの攻撃継続を明言し、合意から同地域を除外する方針を示した。米国内では共和党強硬派から「過剰な譲歩だ」との批判も上がっているが、トランプ氏は「失業者や批判者には耳を貸さない」と反論した。
交渉の進展は世界経済に直結する影響を及ぼしている。ホルムズ海峡は世界石油供給の約20%を占める戦略的航路であり、封鎖状態の長期化はグローバルなエネルギー価格高騰と食料危機を煽っている。株式市場や為替市場は合意期待で一時反発したものの、専門家は物理的なサプライチェーンの正常化まで数ヶ月を要すると警告し、交渉の行方次第で地政学的リスクが再び市場を揺るがす可能性があると指摘している。